キスから始まる方程式
その日の夜。
「よいしょっと」
正式に桐生君と付き合うことを決めた私は、まずそのための第一歩として翔との思い出の品を全て封印することにした。
「あっ! これ懐かしいっ!」
「ぷぷっ! こんなこともあったっけ」
思い出の品をひとつひとつ箱にしまいながら、その時の情景を丁寧に頭の中に思い描いて行く。
ある意味これが翔との別れの儀式だというのに、あまりにも私と翔との思い出がたくさんあり過ぎて……。
それがまた、どれもまるで昨日のことのように脳裏に鮮明に蘇るものだから、これで最後なのだということを途中で何度も忘れそうになる。
そのたびに自分を叱咤し、ひとつ……またひとつ、と思い出を箱に詰めて行った。
“カゼひくなよ!”
少し薄汚れてしまった白いホッカイロに書かれた翔の文字。
「おかげで、風邪ひかなかったよ」
翔の文字をなぞるようにして、指でそっと触れる。
翔に貰った時はあんなに温かかったそれも、今では私と翔の仲を象徴するかのようにすっかり冷たくなってしまった。