キスから始まる方程式
三週間後。
「うわっ! 風つよっ」
教室棟の三階から直接管理棟へと続く渡り廊下を歩いている途中、突然吹いてきた春一番の風が私を襲った。
ショートボブにカットされた私の黒髪を、容赦なくバサバサと揺らす。
同時にめくり上がりそうな、ややミニ丈の制服のスカートの裾を慌てて手で押さえると、改めて雲ひとつ無い快晴の空を見上げた。
「もう春が近いんだな……」
真冬とは違う、うっすらと暖かな三月の日差しが妙に眩しくて、手でそれを遮りながら目を細める。
「ほら! 急がないと練習遅れるぞっ」
「うわっ、おいっ、ちょっと待てって!」
ふと気が付くと眼下の片隅に、部室で着替えを済ませた数人のサッカー部員達が、放課後の練習のため急いで校庭に向かう姿が映った。
……っ!
その一番後方を無言で走る男子生徒に、私の視線がとまる。
「……翔……」
それは今は誰よりも遠い存在となってしまった、幼なじみの翔だった。