キスから始まる方程式
◇甘いキス
「桐生君もう来てるかな~?」
タンタンタンと、リズムよく管理棟の階段を上って行く。
桐生君ときちんと付き合い始めてから、バレー部の練習がない放課後は私のお気に入りである立ち入り禁止のこの階段の踊り場で、二人きりの時間を過ごすのが私達の日課となっていた。
「桐生君お待たせ! ……っと……。あれ?」
階段を上がった先に待っていたのは、予想外にも階段に座ったまま壁に寄り掛かってうたた寝をしている桐生君の姿だった。
「桐……生君……?」
ソロソロと静かに近付いて、桐生君の隣にちょこんと腰をかける。
待ちくたびれて寝ちゃったのかな?
「もしも~し。桐生君朝ですよ~」
右手の人差し指で桐生君の頬をツンツンと突いたのだが、すっかり寝入ってしまったのかピクリとも動かない。
「どうしよっかな」
ふぅ、と小さな溜め息をついた後、「起こすのもかわいそうだし」と頬杖を突きながらそっと寝顔を見つめる。
よく考えてみると、桐生君の顔を落ち着いてこんな間近で見るのは初めてだった。