キスから始まる方程式


不意に私の脳裏に、以前付き合っていた男の子達との苦いキスの記憶が蘇った。


どの男の子のこともキスをきっかけに嫌いになってしまったため、正直桐生君もそうならないとは言い切れない。


幸いなことにあれから抱きつかれはするものの、今のところキスまでには至らず事なきを得てきたが、見るからに肉食系な桐生君のことだ。

キスを迫られるのもそう遠い先の話ではないだろう。



もしそうなったら私……どうしよう……。



言いようのない不安と恐怖心が頭をもたげる。


せっかく桐生君を好きになりかけている自分がいるのに、今ここで桐生君を失うことになるなんて考えたくもなかった。



「んもうっ! 私がこんなに悩んでるのに、桐生君てば気持ちよさそうに寝ちゃってさっ」



拗ねるように頬を膨らませてジッと桐生君をねめつける。



「でも……ふふっ、可愛い……」



相変わらず何も悩みなど無さそうな顔で、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている桐生君。


それを見ているだけで、なぜだかとても穏やかで温かい気持ちになるのだった。

< 204 / 535 >

この作品をシェア

pagetop