キスから始まる方程式
不意に私の脳裏に、以前付き合っていた男の子達との苦いキスの記憶が蘇った。
どの男の子のこともキスをきっかけに嫌いになってしまったため、正直桐生君もそうならないとは言い切れない。
幸いなことにあれから抱きつかれはするものの、今のところキスまでには至らず事なきを得てきたが、見るからに肉食系な桐生君のことだ。
キスを迫られるのもそう遠い先の話ではないだろう。
もしそうなったら私……どうしよう……。
言いようのない不安と恐怖心が頭をもたげる。
せっかく桐生君を好きになりかけている自分がいるのに、今ここで桐生君を失うことになるなんて考えたくもなかった。
「んもうっ! 私がこんなに悩んでるのに、桐生君てば気持ちよさそうに寝ちゃってさっ」
拗ねるように頬を膨らませてジッと桐生君をねめつける。
「でも……ふふっ、可愛い……」
相変わらず何も悩みなど無さそうな顔で、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている桐生君。
それを見ているだけで、なぜだかとても穏やかで温かい気持ちになるのだった。