キスから始まる方程式
コンコン
「っ!?」
「!」
絶体絶命の大ピンチ、という絶妙のタイミングで、突如ドアをノックする音と共に廊下からお母さんの声が聞こえてきた。
「七瀬~、お茶とケーキ持って来たから入るわよ~」
この場に似つかわしくない、なんとものほほんとしたお母さんの声が廊下に響き渡る。
「う、うん! どうぞっ」
お母さんの声に弾かれるようにして、慌てて敷いてあった座布団の上へ座る桐生君と私。
「見て見て~! 桐生君が買ってきてくれたケーキ、すっごく美味しそうなのよ~」
「あはは、ほんと美味しそう……」
さっきまでの私達の様子を知らないお母さんは、部屋に入って来るなり超ハイテンションで弾丸トークをし始めた。
あ、危なかった~……。
今も心臓がバクバクと脈打ち、額にじっとりと汗をかいている私に対し、なんとも涼しげな顔で何事もなかったかのように爽やかにお母さんと会話をする桐生君。
あんなことがあった後とはもちろん思えない、まさに別人28号である。