キスから始まる方程式
「七瀬の友達からも、七瀬の嫌がるようなことだけはするなって言われてたから……今日は抑えようと思ってたんだけどさ……」
「友達って……?」
「あぁ、この前俺に教科書貸してくれた子」
「麻優……」
先日私の教科書がみつからなくて、代わりに麻優の教科書を桐生君に貸したことがあったのを思い出す。
あの時廊下で待っていた桐生君に、麻優が直接自分で教科書を渡すからと言って私抜きで何か話していたっけ。
何を話していたのか気になってそのあと何度か聞いたのだが、その度にはぐらかされてしまったけれど……なるほど。そういうことだったのか……。
麻優……。私のために……。
口ではあんなことを言っていた麻優だが、内心私のことを相当心配していたにちがいない。
今更ながらに親友の優しさがジンと心に染みた。
そういえば……いつだったか、翔も桐生君に私のことを泣かさないでやってくれって言ってくれたことがあったな……。
翔も麻優と同じように、私のことを心から心配してくれてたってことなのかな……。
不意に胸にチクリと痛みが走る。
……っ! 私ってばこんな時に何翔のこと考えてんだろ!
我に返った私は、邪念を振り払うようにブンブンと大きくかぶりを振ると、一度それかけた話を再び元に戻した。