キスから始まる方程式
「うっ……」
あれだけイライラしていたのに、なんのかんの言っても桐生君の笑顔を見た途端キュンとなっちゃう私の胸。
自分でもバカだとは思うのだが、こればかりはどうしようもない。
きっとさっきの女の子達も、こんなふうに桐生君の笑顔に一発でやられてしまうのだろう。
でもまぁ、そこまでして私と一緒にいたいって思ってくれてるのは……ちょっと……いや、かなり嬉しいかも……。
呑気にもそんなふうに思い始めた時、荷物を席に置き終えた麻優がこちらへやって来た。
「桐生君おはよう」
「あぁ、はよっ。え~と……」
「麻優。橋本麻優だよ」
「そうそうっ、橋本さん! この前は教科書サンキュ」
「いえいえ、どういたしまして。こちらこそ約束守ってくれてどうも」
「約束? 約束って……、あぁ、あれか……」
麻優の言っている“約束”とは、きっと『七瀬の嫌がることはするな』発言のことに違いない。
なんとなく気まずそうに麻優から視線を反らす桐生君。
実際はけっこう際どいところまで暴走してしまった桐生君としては、どこかしら後ろめたいものを感じているのだろう。
まぁもちろん、こんな事態も想定して麻優にはキスだけしかしていないと伝えておいたのだが……。
とりあえず桐生君が居心地が悪そうだったので、気を利かせて私から話題を切り替えることにした。