キスから始まる方程式
◇ちっぽけなプライド
結局昨日はあれから、桐生君と一度もちゃんと話せなかったなぁ……。
6時限目の地理の授業をぼんやりと聞きながら、昨日のことを思い出す私。
本当は放課後少しでも桐生君と話をしてこの不安な気持ちから解消されたかったのだが、昨日は運悪く部活があったためそれが叶わなかったのだ。
しかも今までならば部活があっても終わるまで待っていてくれることが多かったのだが、昨日はそれさえもなく、ただ一言『今日は用事があるから先に帰る』のメールだけが私のもとに届いただけだった。
なんとしても今日は、2人の時間作らなくちゃ。
私の性格上、恐らく2人きりになっても肝心な話は切り出せないだろうことは自分でもよくわかっている。
しかし、もしかしたら桐生君のほうからちゃんと納得のいく説明をしてくれるんじゃないか、という淡い期待が、私の挫けそうな心をどうにか支えていた。
キーンコーンカーンコーン
待ちに待った授業終了を告げるチャイムが鳴り、生徒達が一斉に帰りの支度や部活へと動き出す。
私も「よしっ」と心の中で再度気合いを入れ直し、隣の席の桐生君に向き直った。
今日こそ……今日こそ言わなくちゃ!
「桐生君、一緒に帰……っ」
「冬真っ!」
っ!?
しかし私の声をかき消すように、突然聞こえてくる女の子の声。
驚いて声がした方に顔を向けると、工藤さんがニコニコと可愛らしい笑みを浮かべながら立っていたのだった。