キスから始まる方程式
工藤さん!?
私の胸が、ドクンッと警戒音を発する。
ざわざわと押し寄せる嫌な予感が、どんどん体中に広がって行くのがわかった。
「ねっ、これから学校の中案内してよ」
っ!?
見事に当たってしまった胸騒ぎに、ジリ……と胸の奥が痛みで疼く。
「凛……!? いや……あの……」
眉間にしわを寄せ、ばつが悪そうに桐生君が私をチラリと窺い見る。
その瞳の奥には、動揺と困惑が色濃く浮かんでいた。
桐生君……困ってる……。
けれどそんな桐生君にはおかまいなしに工藤さんはクルリと向きを変えると、今度は私に声を掛けてきた。
「七瀬ちゃんもお願い! 今日だけでいいから、冬真貸してくれないかな?」
「えっ!?」
いきなり予想外のお願いをされ、思いきり怯む情けない私。
や、やだっ! これ以上桐生君と工藤さんが2人きりでいるとこなんて見たくない……っ。
でも……。
私の中の本当にちっぽけな『桐生君の彼女』としてのプライドが、こんな時に限って邪魔をし、喉まで出かかった私の本音をギリギリで抑え込んでしまった。