キスから始まる方程式
「わ、私はべつに大丈夫だよ! 桐生君行っておいでよっ」
「っ!?」
了見の狭い女だと思われたくなくて、作り笑いをしながらわざと余裕な振りをする。
「いや、でも……っ」
「いいじゃん冬真! 彼女の七瀬ちゃんが貸してくれるって言ってるんだからさっ」
――……っ!
“彼女の七瀬ちゃん”
工藤さんのまるで茶化したようなその一言に、私の体がカッと熱くなった。
「べ、べつに桐生君は……私の物じゃないし……っ。
それに、いちいち私に許可取る必要なんてないから!」
おもわず口から出てしまった言葉に、言ってからハッとなる。
工藤さんはまるでその言葉を待っていたようにニヤリと笑うと
「ほらほら! わざわざ七瀬ちゃんに聞く必要ないってさ! それじゃ遠慮なく……」
そう言って桐生君の背中を強引に押した。
「じゃ~ね~七瀬ちゃんっ」
「七瀬……っ」
歩きながらも、目を切なそうに細め私を振り返る桐生君。
……っ、桐生君……。
けれどそれ以上は何も言わずに私から目をそらすと、工藤さんと共に教室から出て行ってしまった。