キスから始まる方程式
―― ズキッ
「いたっ!」
そんな私の顔に、突然走った鈍い痛み。
慌てて顔を上げると、ぷぅっと頬をパンパンに膨らませた麻優が、怒った顔をして私の右頬をギュッとつねっていた。
「七瀬違うよっ、それ逆でしょ!?」
「え……?」
「桐生君の今の彼女は誰? 他でもない七瀬じゃん!
誰にも桐生君を止める権利はないけど、唯一七瀬にだけはそれがあるんだよっ」
「麻優……」
麻優の言葉がジンと心に染みて胸が熱くなる。
「だから七瀬は、もっと桐生君にワガママ言っていいんだよ?
その調子じゃ、工藤さんのことも聞けてないんでしょ?」
「っ……。でも……」
それでもまだ言いよどむ私に、麻優が「んも~っ!」と怒りの声をあげた。
「普段はあんなに強気なくせに、なんで七瀬は恋愛のことになるといっつもこうなっちゃうかなぁっ」
「うっ……」
「工藤さんに桐生君とられちゃっても、私もう知らないからね!」
「はうぅ……。麻優~……っ」
うるうると捨てられた子犬のように瞳を潤ませ麻優を見つめる私。
そんな私を見てさすがの麻優も言い過ぎと思ったのか、ふぅっと大きな溜め息をついて唇を尖らせながら呟いた。