キスから始まる方程式
* * * * *
「む~……」
唸りながら携帯のディスプレイと睨めっこする私。
部活が終わり部室で着替えていた麻優が、そんな私の様子を気にして肩越しから携帯を覗いてきた。
「七瀬、どうしたの?……あっ」
気まずそうに首をすくめて、おずおずと私を見上げてくる麻優。
無理もない。
“ごめん、用事があるから先に帰る”
明るく輝くディスプレイに映っていたのは、それとは全く対照的な桐生君からのどす暗い内容のメール文だったのだから……。
『桐生君は私の物じゃない』宣言をしてから早一週間。
私の意地っ張りな言葉が仇となり、本当に工藤さんは私に全く遠慮することなく、桐生君をあちこちへ連れ回すようになった。
まぁ私が、いちいち私に許可を取る必要ないなんて言ったからそもそも悪いんだけど……。
ある意味自分で蒔いた種だから仕方ない。
それでも毎日毎日後悔の念が山のように積もり、私の心をより一層どんよりとさせた。
「き、桐生君、忙しそうだねっ」
「うん、だね……」
おろおろと困ったように視線をさまよわせる麻優に、苦笑いを浮かべながら返事をする。
本当は今日はどうしても一緒に帰りたい理由があったため、内心落胆の度合いはいつもの倍以上だった。