キスから始まる方程式
「桐生君も桐生君だよね!
なにもあそこまで工藤さんの言いなりになることないのにっ」
むんっ、と唇を尖らせながら麻優が更に続ける。
「だいたい、なんでハッキリ断らないのかなぁ?
いくらプレイボーイだからって、いつもだったら絶対七瀬のこと優先するのにぃ」
「うん……なんでだろね……」
確かにそうだ。
私と付き合い出してからは、常に私のことを一番に考えてくれてもちろん他の女の子からの誘いは全てハッキリ断っていたのに。
けれど工藤さんの時は私のことを気にしながらも、結局毎回強引に押し切られて断れない、というパターンの連続だった。
その度に私を振り返りながら、辛そうに揺れる桐生君の瞳。
けれどその真意が私にはわからず、胸の痛みはどんどん増すばかりだった。
どうしても知りたければ、本当はメールで聞けばいいんだろうけど……でも……。
携帯が入った鞄をジッと見つめて、本日何度目かの大きな溜め息をつく。
実は何度もそうしようと思ってメールを打ってはみたのだが、やはりメールだと本当のことを教えてくれないような気がして、結局送信できずにいたのだった。