キスから始まる方程式


「あっ……!……翔」



言ってから、いやいやそれはないでしょと、自らツッコミを入れる私。


同じクラスになってからも翔からは相変わらず避けられまくりで、もちろん一度も会話を交わすことなどなかった。


どう考えたって、そんな翔が私にプレゼントをくれるとは到底思えない。


それでも再びチラつく翔の顔。



そういえば……去年までは毎回必ず翔がプレゼントをくれたっけ……。


恥ずかしがって“おめでとう”は絶対言わなかったけど、それでも毎年忘れずに覚えててくれたんだよね……。



懐かしい淡い思い出に、自然と顔が綻ぶ。


去年はピンクの水玉のポーチ、一昨年は花柄のハンカチを貰って、飛び上がるほど嬉しかったのを覚えている。



けれど、それも今では指輪や写真と一緒に“翔の思い出ボックス”に封印してしまったため、もう目にすることさえできない。


なんだかそう思うと、無性に胸の奥がギュッと苦しくなった。



「っと! いっけない! 麻優が待ってるんだった」



翔の思い出から無理矢理思考を引き剥がし現実と向き合う。



やっぱりどう考えても翔が私にプレゼントくれるなんて、もう絶対ありえないもんね……。


うん、しょーがないよ。しっかり現実受け止めなくちゃ!



そう自分に言い聞かせた私は、結局誰から貰ったかわからないプレゼントを一度キュッと胸に抱きしめ、



「とりあえず、早いとこ麻優のところに行かないとねっ」



気を取り直すようにそう呟くと、紙袋を大切に鞄の中にしまい、麻優の待つ私の“お気に入りの場所”へと向かった。
< 323 / 535 >

この作品をシェア

pagetop