キスから始まる方程式


「あれ?そういえば私、麻優にお気に入りの場所なんて話したことあったっけ?」



渡り廊下を小走りに進みながら、ふと疑問が頭に浮かんだ。


なんだか今朝は“そんなこと言ったっけ?”的なことばかり続いているような気がする。



でも麻優が知ってるってことは、私が言った以外考えられないもんなぁ……?



む~……と頬を膨らませながら、こめかみをポリポリと指で掻く。


根が単純な私は、まぁいっか、とそれ以上特に気にも留めず、“お気に入りの場所”である管理棟3Fの立ち入り禁止の階段へと急いだ。



* * * * *



「よいしょっと」



階段前に置かれている“立ち入り禁止”と書かれた看板を堂々と無視し、急ぎ足で階段を上って行く。


5月といえど朝の階段はまだうすら寒く、一瞬ヒヤッとした空気が頬を撫でたような気がした。



「麻優ごめんね~!」



踊り場に差し掛かり、更に屋上へ続く階段へ歩を進める。


そして待ちくたびれているであろう麻優へと顔を上げた瞬間



「お待た……せ……っ!?」



ドサッ



驚きのあまりその場で固まってしまった私の手から、するりと鞄が床へ落ちた。



「なん……で、ここに……いるの……? …………桐生君……」

「おはよ、七瀬」



そう。階段で私を待っていたのは親友の麻優ではなく、ちょっぴりはにかんだ笑顔を浮かべた桐生君だった。
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