キスから始まる方程式
あぁ、だからか。
『冬真、私のこと待っててくれなかったんだね……』
工藤さんのあの時の言葉の意味が、今ようやくわかった。
私という存在を知った時、工藤さんはどれほど落胆したことだろう?
もしかしたら、いつ叶うかもわからないその約束を支えに、ずっと知らない土地でひとり頑張っていたのかもしれない。
彼女が編入してきた日に桐生君が私の手を払い除けたのも、きっと工藤さんへの罪悪感から咄嗟に手が出てしまったのだろう。
そんな二人の気持ちを思うと、どうにもやりきれない複雑な感情が胸の中にジクジクと広がるのだった。
「去年じいさんとばあさんが立て続けに亡くなって、それでこっちにいる親戚の世話になることになって戻って来たらしい……」
淡々と語る桐生君の声を聞きながら、ふと私の中にある思いが沸いてきた。
―― 私さえいなければ、二人は幸せになれるんじゃない?
ドクン、と鼓動が跳ね上がる。
やだ、私ってば何考えてんだろ!?
そんなこと! ……そんな……こと……。
頭上で話しているはずなのに、桐生君の声がどんどん遠ざかる。
それと同時に私の中で、先程気付いてしまった思いだけが瞬く間に増幅していった。