キスから始まる方程式


「……瀬? 七瀬?」



私の異変に気付いた桐生君が、抱きしめていた私の体を離し顔を覗き込んできた。



「どうした?」

「あ……」



心配そうな桐生君の瞳に見据えられ、ハッと我に返る私。



どうしよう……っ。



「桐生君……私……っ」



ゆらゆらと瞳をさまよわせて戸惑う私を、眉間にしわを寄せて苦しそうに見つめる桐生君。


もう一度口を開こうとした時、「違うんだ」と桐生君がそれを遮った。



「七瀬今、『私さえいなければ』って思ってただろ」

「……っ」

「そんなふうに思わせてごめん……。でも、そうじゃないんだ」



桐生君が切なそうに、その長い指の背で私の頬をゆっくりと撫でる。



「凛にきっぱり言ったんだ『今の俺は七瀬のことが好きなんだ』って」

「っ!?」

「そしたら凛に……もう単なる友達なんだから、俺が誰と付き合おうと私には関係ないって言われちまった……」

「え……?」



そんなはずは……



「だからもう、七瀬はそんなこと思わなくていいんだよ」



そう言うと桐生君は、切れ長の瞳をふっと細めた。



違う……、違うよ桐生君……。工藤さんはやっぱりまだ……



―― 桐生君のことが好きなんだよ



桐生君の言葉を聞きながら、彼女と同じ意地っ張りの私にはそれがすぐにわかった。
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