キスから始まる方程式
「七瀬この前凛に、俺は七瀬のものじゃないって言ってただろ?」
「あ……っ」
「ほんとにそう思ってる?」
「……っ、だって……」
桐生君の指先が私の唇へと移動し、確かめるようにゆっくりと輪郭をなぞる。
桐生君の艶めいた瞳の奥に、熱い想いが見えたような気がした。
「俺は七瀬のものだよ」
「っ!!」
「この前も今も、そしてこれからも……俺はずっと七瀬だけのものだよ」
「……っ」
「七瀬がいい……。七瀬じゃないとだめなんだ」
「桐生く……っ」
みるみるうちに桐生君の顔がぼやけて行く。
桐生君が人差し指の背で私の目尻から溢れる涙をそっと拭った。
そしてそのままチュッと軽く唇にキスをすると、コツンと私の額に桐生君の額をくっつけてきた。
「それとも七瀬は、もう俺なんていらない?」
上目遣いで私を見ながら、ちょっと拗ねたふうに囁く桐生君。
その顔はもう工藤さんのことを思って苦しむ桐生君ではなく、いつものちょっぴり意地悪で自信満々な桐生君だった。