キスから始まる方程式


「七瀬この前凛に、俺は七瀬のものじゃないって言ってただろ?」

「あ……っ」

「ほんとにそう思ってる?」

「……っ、だって……」



桐生君の指先が私の唇へと移動し、確かめるようにゆっくりと輪郭をなぞる。


桐生君の艶めいた瞳の奥に、熱い想いが見えたような気がした。



「俺は七瀬のものだよ」

「っ!!」

「この前も今も、そしてこれからも……俺はずっと七瀬だけのものだよ」

「……っ」

「七瀬がいい……。七瀬じゃないとだめなんだ」

「桐生く……っ」



みるみるうちに桐生君の顔がぼやけて行く。


桐生君が人差し指の背で私の目尻から溢れる涙をそっと拭った。


そしてそのままチュッと軽く唇にキスをすると、コツンと私の額に桐生君の額をくっつけてきた。



「それとも七瀬は、もう俺なんていらない?」



上目遣いで私を見ながら、ちょっと拗ねたふうに囁く桐生君。


その顔はもう工藤さんのことを思って苦しむ桐生君ではなく、いつものちょっぴり意地悪で自信満々な桐生君だった。

< 341 / 535 >

この作品をシェア

pagetop