キスから始まる方程式


「せっかく仲直りしたのに、結局今日の昼休みも工藤さんに桐生君連れて行かれちゃったけど……。 七瀬はそれでいいの?」



そう言って、さっきとは打って変わって不満気な顔で私を見つめる麻優。


明らかにその瞳が「私は納得いかない」と訴えているのがわかった。



「うん、いいの!」

「え? なんで!? 七瀬、嫌じゃないの?」

「う~ん……」



嫌じゃないといえば、正直嘘になる。


やはり桐生君が他の女の子……しかもそれが過去に好きだった女の子と一緒だと思うと、尚のこと心中穏やかでない。


桐生君も麻優と同じことを思い、私を気遣って『凛の誘いはもう受けない』と言ってくれた。



けれど……



「桐生君のこと信じてるから!」

「七瀬……」



桐生君に貰った首元のネックレスをギュッと掴み笑顔で呟く。


今の私は虚勢や意地などではなく、本当に心からそう言えるようになった。



だから桐生君にも言ったのだ。



『工藤さんには今は桐生君しか頼れる人がいないから行ってあげて』って……。



「おやおや~? いつの間にか七瀬夫人は、すっかり成長されましたな~?」



ニシシっと笑いながら麻優が肘で「このこの~」っと突っついてくる。



「んもうっ! 麻優ってば」

「エヘへ。でもこれでやっと楽しい毎日が戻ってきそうでよかったね」

「うんっ、そうだね。きっと今度こそ……」



―― 平穏で幸せな日々に戻れる





この時の私は、本当にそう思っていたんだ…… ――――
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