キスから始まる方程式
「な~なせ! 次移動教室だから早く行こ~よ~」
3時限目の授業が終わり休み時間になると同時に、麻優がタタタタッと笑顔で走り寄って来た。
「あ~ごめん! トイレ寄って行くから先に行ってて?」
ごめんというように、両手の平を胸の前で合わせながらそう言うと、麻優は「じゃあ七瀬の荷物も持ってってあげるね」と私の机の上の教材をヒョイっと持ち上げ自分のそれと重ねた。
「サ~ンキュ」
「うん! じゃあ七瀬も遅れないで早く来てね」
「了解っ」
そう言って廊下で別れると、私は急ぎ足でトイレへと向かった。
* * * * *
っだ~っ! 化学室って何気に遠くて面倒なんだよな~。
次の授業で使う化学室は、教室棟ではなく管理棟一階の一番端に位置する。
そのため移動が思いのほか面倒で、特に今のようにトイレなどに寄ったりすると途端に時間に余裕が無くなってしまうのだ。
渡り廊下を早足で抜け管理棟へ差し掛かる。
ちょうど廊下の曲がり角に麻優の後姿が見えたので声を掛けようとした瞬間、私の耳に信じられない会話が聞こえてきた。
「桐生君って、工藤さんと中学んとき付き合ってたんだって!」
っ!?
おもわず自分の耳を疑う私。
出しかけた手と足が凍りついたように固まり、それ以上動くことが出来なかった。