キスから始まる方程式
「えっ? だって前に教室で聞いた時、桐生君は誰とも付き合ってなかったって言ってたよね?」
「ん~、そうなんだけどさ。そのあと違う友達に聞いたら、ちょうどその子、中学ん時に桐生君や工藤さんと同じ塾に通ってたんだって!」
この子いつだったか、麻優が教室で桐生君のことを聞いた、同じ中学だったっていう子だ。
なんともいえないざわざわとしたものが、胸の底から沸き上がる。
なんだか盗み聞きのようで気が引けたのだが、内容が内容だけにどうしても知りたいという気持ちが勝ってしまった。
「それでね、すっごく仲良くて、いっつも二人だけの世界築いちゃってて、他の人は誰も寄せ付けなかったらしいよ~」
「そんな……。それってほんとなの?」
「だと思うよ? 間近で見てた人が言ってるんだから間違いないんじゃない?」
麻優……。
麻優の顔を見なくても、明らかに表情を曇らせているのがわかる。
私のせいでまた麻優にそんな顔をさせてしまっているのかと思うと、苦しくてたまらない気持ちになった。
せっかく平和な日々が続いていたのに、またしても忍び寄る不穏な影。
ドクン……ドクン……と、抑えようとすればする程どんどん不安の鼓動が高まる。
そんな不安を打ち消すように胸元のネックレスに手を伸ばし、心を落ち着けるためギュッと強く握りしめた。
大丈夫っ。桐生君が嘘つくわけないもん。今度こそ絶対信じるんだから……っ。
目を閉じて心の中で何度も何度も言い聞かせるように呟く私。
その時不意に、4時限目開始を知らせるチャイムが校内中に鳴り響いた。