キスから始まる方程式


「あぁ、それ? 前に翔にも話したことある、激レア限定くまんちゅマスコットだよ!」



可愛いでしょ、とニコニコしながら翔に得意げに話す私。


それに対して「あぁ」と曖昧な返事をしながら、翔がちょっと考えてから問いかけてきた。



「これ、七瀬が買ったのか?」

「ううん、結局あの後私も手に入らなくて。でもこの前の私の誕生日に、プレゼントとして貰ったの!」



誰からかはよくわかんないんだけど、と差し障りの無い程度に簡単に経緯を説明する。



「んもうすっごく嬉しくって、早速鞄につけちゃったんだ!」

「……っ! そっか……」

「あ、ねぇ。さっき女の子達におもいっきり鞄放り投げられちゃったけど、くまんちゅ汚れてない?」

「ん? ちょっと待って」



私の言葉に、翔が手にしていた鞄のくまんちゅを指でつまみ角度を変えながらくまなくチェックする。



「あぁ、大丈夫みたいだ」

「そう? よかったぁ」



ホッと安堵の吐息を漏らし胸を撫で下ろす。


するとそんな私の胸に翔が、持っていた鞄をボスンと押し付けてきた。



「いった~っ! ちょっと翔っ、なにする……っ……!?」



弾みで閉じてしまった目を開きつつ、翔へ文句の言葉を投げつける。


すると突然、翔の腕が私の頭にスッと伸びてきた。



え……?



不意の出来事に、ただただ呆然とする私。


伏せていた視線をかろうじて上げ翔を見上げると、形のよいアーモンド形の翔の瞳がフッと優しく細められ、口もとが嬉しそうに綻んでいた。

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