キスから始まる方程式


「ほら、七瀬の席に行こ?」



そう言って体を労わるように支えながら、窓際最後尾の私の席へと連れて行ってくれる麻優。


そんな優しい麻優に、ツキンと更に胸の痛みが大きくなった。



嘘ついちゃってごめんね……。



心の中でそっと呟きながら、申し訳なさそうに麻優に視線を送る。



「ん? どしたの? 足、痛かった?」



どこまでも純粋に私のことを心配してくれる麻優に、もう一度ごめんと頭の中で呟く私。



「ううん! 大丈夫だよっ。ありがとね」



本当のことは言えないけれど、せめてこれ以上心配かけないようにと、感謝の言葉と共に精一杯の笑顔を返した。





「な、七瀬!? おまっ、どうしたんだよその足!」



そんな中、突然教室の入り口から聞こえてきた男の子の叫び声。


クラス中の視線が一斉に声の主に集まる。


しかし彼はそれを気にする風もなく、ものすごい勢いで駆け寄ってきたかと思うと、席に座っている私の足もとにドスンとしゃがみこんだ。



「あ、あの……桐生君?」



声の主である桐生君が、驚いた顔で目をパチパチさせながら、ジッと私の左足首を凝視している。


強気な性格とはいえ、私もそれなりにオシャレに興味を持つ年頃の女子高生だ。


超ミニ……とまではいかないまでも、制服はミニスカートの域に入るぐらいの丈のものをはいている。


包帯が邪魔をして左足は靴下を履いていないため、当然今は太腿から足先まで生足のまま人目に晒されているわけで……。


もちろん桐生君が、不埒な目で私の足を見ているわけではないことはわかっている。


けれどやはりどうにも恥ずかしくて……。


ついに視線に耐えられなくなった私は、桐生君の頭に手を乗せ、離れろと言わんばかりにそのままググッと力をこめた。
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