キスから始まる方程式
麻優……っ
親友の麻優が両手を胸の前でギュッと握りしめ、今にも泣きそうな顔をしている。
「麻優!」
「あ……七瀬……っ!」
私が麻優の名を呼んで走り寄ると、麻優が私の胸にすがりつくように勢いよく飛び込んで来た。
「麻優? ねぇ、いったいどうしたの?」
「七瀬……っ、あの……あのね……」
潤んだ瞳で私を見上げ、何かを必死に言おうとしている麻優。
よく見ると、私の制服の胸元を掴むその手はカタカタと小刻みに震えていた。
麻優がこんなに動揺してるなんて……。まさか麻優が誰かに何かされたの!?
途端に妙な胸騒ぎが身体中を駆け巡る。
いつも笑顔で誰からも愛される麻優がそんな目にあうとはにわかに信じがたかったが、状況から察するにそうとしか考えようがなかった。
「ねぇ麻優? 何があったの? 落ち着いて話してみて?」
背中を優しく擦り、なるべく穏やかな声音を意識しながら麻優に問いかける。
「七瀬っ……。それが、黒板にね……」
「えっ? 七瀬?」
ようやくのことで麻優がそこまで言いかけた時、不意に周囲の声が麻優の言葉を掻き消した。
「七瀬来てんじゃん」
「うわ~……どうすんだろ……」
明らかに歓迎ムードではない冷ややかな声と共に、生徒達の視線が一斉に私へと突き刺さる。
え……? ちょっと待ってよ。なんでみんな私を見てるの……?
現状が理解できずに、その場で考え込むこと数秒。
っ! もしかして!?
そう思った瞬間、私は弾かれたように人だかりの中に飛び込んだ。