キスから始まる方程式


「……れだよ。……んなことしたの」



……?



私の耳に微かに届く掠れた声。



「誰だって聞いてんだよ! こんなくだらねーことしたヤツっ!」



翔!?



突然響き渡った凄まじい翔の怒声に、教室が一瞬にしてシーンと静まりかえる。



「今まで散々七瀬に嫌がらせしてたヤツも出てこいよっ!」



騒々しかった空気が凍りつき、誰もそこから一歩も動くことができなかった。



ダンッ



静寂に包まれた教室に、翔が拳をおもいきり黒板に叩きつけた音が再び響き渡る。



ビクッ



翔の一挙一動に、私を含め、そこにいた全員が体をビクリと震わせた。



「これ以上七瀬に何かしたら、俺が絶対に許さないっ」



あ……



翔の瞳の奥に灯る激しい怒りの炎に、私の胸がギュッと締め付けられる。


私のことを守ろうとしてくれる翔のその気持ちが嬉しくて、溢れる涙を抑えることができなかった。



「なんだよ、これ……」



え……?



その時不意に、私の背後から聞き慣れた声が弱々しく降り注いだ。


目を見開き、はっと息を呑む私。



この声……っ。やだ……どうしよう……っ



ドクドクと不安に波打つ心臓を押さえながら、ゆっくりと背後を振り仰ぐ。


しかし



「き……りゅう……くん……」



そこに立っていたのは、今ここに最もいてほしくなかった人物…………桐生君だった。
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