キスから始まる方程式
「いったい……どうなってんだよ……っ」
見上げた桐生君の瞳が、信じられない物を見たというようにゆらゆらと揺れている。
確かにこの状況で翔のあの言葉を聞けば、むしろ誤解しないほうがおかしい。
どうしようっ。 桐生君、絶対勘違いしてる!
途端に熱くなっていた胸がスーッと冷たくなる。
次々と起こる予期せぬ事態に、私も動揺を隠せなかった。
「っ! き、桐生君っ、これは……その……っ」
それでもなんとか桐生君の誤解を解こうとしたのだが……
「七瀬……なんで隠してたんだよ……」
「え……?」
「今まで俺に嘘ついてたのかよ!」
「っ!」
我慢していた怒りが決壊したかのように、声を荒げた桐生君が私の腕を掴み詰め寄って来た。
「私……っ、そんなつもり……」
「だったらなんで言ってくれなかったんだよっ」
グッと物凄い力で掴まれた腕に、更に桐生君の指がギリリとくいこむ。
「っ痛!」
「っ!?」
あまりの痛みにおもわず歪む私の顔。
それを見てハッと我に返ったのだろう。
桐生君の指の力がフッと緩み、震える私の腕から離れていった。
「悪い……っ」
眉根を寄せ目を逸らし、掠れた声で苦しげに呟く。
そしてそのままクシャリと前髪を握りつぶすと、私を避けるように廊下へと駆け出した。