キスから始まる方程式
「桐生君! 待って!」
私の声を無視し、桐生君が廊下へと消えて行く。
私も桐生君のあとを追いかけようと足を踏み出したのだが……。
更にこの最悪な状況に追い打ちを掛けるように、出て行った桐生君とすれ違いざまに教室の出入り口に真っ青な顔をした南條さんが立っていたのだった。
「南條さん!?」
両手で口もとを覆い、驚きに目を見開いたまま立ちすくんでいる。
足はガクガクと震え、細くて華奢な体は支えがないと今にも倒れてしまいそうだった。
桐生君だって誤解して出て行ってしまったのだ。
当然南條さんだって勘違いしているに決まっている。
大変! 私のせいで翔と南條さんまでおかしなことになったら……!
とにかく誤解を解かないと、と南條さんへ駆け寄ろうとする私。
その瞬間、涙をいっぱいにためた彼女の瞳と私の瞳がバチンと交わった。
ガタンッ
それに弾かれたように、踵を返し走り去って行く南條さん。
「待って、南條さん! 違うのっ」
けれど必死の私の呼びかけも虚しく、桐生君同様南條さんも一度も振り返ることなく、教室をあとにしたのだった。