キスから始まる方程式
……? なんだか、とてもあったかい……。
「……瀬」
声……? 声が……聞こえる……。
「……七瀬」
声……
「七瀬!」
私を呼ぶ声……っ!
声と温もりに導かれるように、閉じていた瞳をゆっくりと開く。
すると何もなかった世界に明るい光が射し込み、涙でクシャクシャになった麻優の顔が視界いっぱいに飛び込んで来た。
「麻……優……?」
状況が理解できなくて、きょとんとする私。
さっきの……夢だったんだ……。
あれ? それなのに麻優、なんでそんなに泣いてるの?
そういえば私、どうしてベッドで寝てるんだろう?
停止していた思考がゆるゆると動き出し、疑問が次々と浮かんでくる。
あ……。 あったかい……。
気が付くと私の手は、小さな麻優の手によってしっかりと握られていた。
「あの……、麻……」
「七瀬~っ!!」
「わわっ!?」
なんとなく重怠い上半身を起こそうとした瞬間、突然麻優が叫びながら抱きついてきた。
「え? えぇっ? 麻優、いったいどうしたの?」
「う~っ……、七瀬、……ひっく……七瀬~っ」
なにがなんだかわからないけれど、とりあえず麻優が悲しんで泣いているということだけはわかる。
嗚咽を漏らしながら、尚も私の胸で泣きじゃくる麻優。
どうしたものかと戸惑いながらもその背をそっと擦ると、麻優が泣きながらゆっくりと話し始めた。