キスから始まる方程式
「七瀬……っ、騒ぎの中……教室で突然倒れて……。うっ……、それで……風間君が……保健室に運んでくれて……っ」
「あ……」
そうだった。私、南條さんを追いかけるよう翔に頼んでて、それで……。
そこでプッツリと記憶の糸が途切れている。
恐らくはそこで意識を失ったのだろう。
「風間君から……うっ……全部……聞いたの……。 私……っ、七瀬がそんな酷いことされてたなんて……ひっく……ちっとも知らなくて……」
「麻優……」
―― どうして私に隠し事してたの?
先程の夢の中での麻優の言葉が不意に蘇る。
麻優に心配をかけまいとして隠していたけれど、結果として逆にそれが彼女を深く傷つけることとなってしまった。
「麻優、私……ごめ……っ」
「ごめんね……っ!」
え……?
申し訳ない気持ちから、とにかく麻優に謝りたくて口を開いたのだが……。
しかし私の贖罪の言葉は、麻優の声によって遮られた。
「七瀬が苦しんでたのに……ひっ……あたし……っ……全然……気付いてあげられなくて……っ」
「麻優?」
なんで? なんで私を責めないの?
麻優は私のことを、夢の中の時みたいに責めていいのに。
「こんなの……七瀬の親友失格だよね……っ」
なんで話してくれなかったのって、怒ってもいいのに。
なのに、私を責めるどころか、気付けなかった自分が悪いだなんて自分自身を責めるなんて……!
「うぅっ……ごめんね……七瀬……っ」
あぁ……この子ときたらもう……。
気が付くと私は、麻優の小さな体をギュッと抱きしめていた。