キスから始まる方程式
「お取込み中のところ水を差すようで悪いんだけど。結城さん、体調はどうかしら?」
あ……しまった、ここ保健室だった!
場所を忘れてすっかり二人の世界に浸ってしまっていたことに、おもわず頬がポッと赤くなる。
「だ、大丈夫ですっ!」
「そう、それならよかったわ」
どもりながら答える私に、先生がホッとした表情で言葉を続けた。
「顔色もすっかり良くなったわね。恐らく寝不足からくる貧血だと思うけど、遅くまで受験勉強でもしてたのかしら?」
「あ……はは、まぁ」
いくら保健の先生でも、まさか「恋の悩みです」なんて本当のことを言う訳にもいかない。
そんな歯切れの悪い私の態度と、先程の麻優とのやり取りから薄々何かを感じたのか、先生は一瞬顔を曇らせたあと
「まぁいいわ。あなた達も年頃の女の子だし、色々あるわよね」
そう言って溜め息まじりに苦笑した。
「で~も、倒れるまで悩み事を一人で抱え込むのは感心しないな」
「……」
「あなたはひとりじゃないのよ? 結城さんには、大切な人達がたくさんいるでしょう?」
「大切な……人……」
「あなたがその人達のことを大事に思ってるように、きっとその人達もあなたのこと大事に思ってるわ。
だから、そんなあなたが一人で苦しんでたら、その人達もきっと辛いと思うの」
「先生……」
「むしろ、そういう時こそ周りの人を頼らなきゃ! もちろん、私も含めてね」
ニッと笑いながら、先生がバンバンと励ますように私の背中を優しく叩く。
大内先生の言葉がじんわりと心に染み、また涙がツンと込み上げてきた。