キスから始まる方程式
* * *
―― 好きだ
翔の言葉が、頭の中をひたすら駆け巡る。
翔の性格を考えても、とても遊びやいい加減な気持ちであんなことを言ったとは思えない。
それに、あの瞳……。
どこまでも真剣で真っ直ぐな翔の瞳が瞼の裏に焼き付いて離れず、それがまた激しく私の心を揺さぶるのだった。
どうしたらいいんだろう。
夢にまで見た翔からの好きという言葉。
ちょっと前の私だったら、天にも昇る程嬉しくて迷うことなく翔の胸に飛び込んだに違いない。
けれど今は……。
再び翔の熱い視線を思い出し、トクンと鼓動が音を立てる。
だって私は……桐生君の彼女で。
でも桐生君は、本当はまだ工藤さんのことが好きなのかもしれなくて。
この心の動揺は、そんな不安な思いからくるものなのだろうか?
それとも、私はもしかするとまだ、翔に対して未練が……?
その時不意に浮かんだのは、恋人同士になった私と翔の幸せそうな姿。
それはかつて私が、いつも心の中に思い描いていた憧れの光景だった。
パシャンッ
あ……。
車が脇を通り過ぎた際にあげた激しい水音が、私を夢の世界から現実へと引き戻す。
ううん、そんなことない。
そんなこと、絶対あるはずない。
きっとそんなことを思っちゃうのは、この不安から逃れて苦しみから解放されたいだけなんだ。
慌てて頭を振りながら、翔の残像を消すように目をギュッとつぶる。