キスから始まる方程式
そんなことをウジウジと思い悩んでいるうちにも、自宅はどんどん近付いてくる。
桐生君と別れるまで、そう長い時間は残っていない。
このまま何も話さず別れたら、きっとまたどんどんこじれちゃう……。
何か……何か話さないと……!
―― 冬真の左胸にホクロがあるから本人に確かめてみたら?
不安と焦りが募る中、突然私の頭に浮かんだのは二日前の工藤さんの言葉。
よくよく考えてみれば、桐生君が私に何も聞いてこない以上、私と翔がどうのこうのというより、むしろ桐生君自身の気持ちを確かめる方が先決かもしれない。
もしも工藤さんの言うとおり、本当に左胸にホクロがあったら……。
考えただけでも、恐くて足がすくみそうになる。
工藤さんの言っていることが本当だとしたら……桐生君は私に嘘をついていたことになり、そしてまたその時は、彼の真意と現在の工藤さんとの関係を疑わざるをえない。
けれど無かったならば、悩みの種をひとつ確実に減らすことができる。
そしてなによりも……
―― 俺は、お前に嘘はつかない
かつて私が翔から距離を置かれた時、桐生君が私に言ってくれた言葉……。
その言葉を、そして桐生君のことを信じたい自分がいた。
きっと大丈夫。数分後には、あんなに悩んだのがバカみたいって笑ってる自分がきっといる。
胸元のネックレスをキュッと握りしめ、自分自身を励ます。
頑張れ……勇気出せ、七瀬!
「桐生君! あのね……っ」
歩みを止めて、震える声を必死に絞り出す。
そんな私のただならぬ様子に気付いたのか、程無くして桐生君も立ち止まりゆっくりとこちらを振り返った。