キスから始まる方程式


「あの……あのね、その……っ」



あまりの緊張に、聞きたいことは決まっているのに言葉が思うように出てこない。


雨で湿っている周囲とは対照的に、私の喉は干からびそうな程カラカラだった。



「き、聞きたいことがあるんだけど……っ」

「……」



それでもなんとか言葉を続ける私。


けれど桐生君は怒っているのか、それともただ面倒なのか、相槌ひとつ打とうとしない。


そんな桐生君の反応に、彼の表情を見て心が折れるのを恐れた私は、俯いたまま話を切り出した。



「桐生君の左胸にっ……ホクロって……ある?」



心臓が破裂しそうな程、ドクドクと高速稼働を繰り返す。


我ながら何の前触れもなしに、いきなりこんな質問をするのはちょっとどうかとも思うのだが、この際そんなことは言ってられない。


とにかく今は、少しでも安心できる言葉や真実が欲しい。



「…………」

「…………」



なんとなく重苦しい沈黙が2人を包む。


桐生君の返事を待っているその僅かな時間が、まるで判決を待つ受刑者のようにものすごく長く感じられた。





そして……



「……あるけど……、なんでそんなこと聞くんだ?」

「っ!?」



待ちに待った私にようやく下されたのは、まさに死刑判決ともいえる最悪の答えだった。

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