キスから始まる方程式
なんで……あるの……?
“信頼”という名の壁が、ガラガラと音を立てて崩れてゆく。
突きつけられた現実に、目の前がクラクラと歪んでその場に立っているのがやっとだった。
「七瀬?」
私が急に黙ってしまったからだろうか。
桐生君が不審げに私の名を呼ぶ。
「……瀬……?」
けれど今の私には、その声さえものすごく遠くに感じられて……。
「……瀬? おい、大丈夫か? 七瀬っ」
何度目かの問いかけでようやく顔を上げたのだが。
その瞬間私の頭に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた工藤さんの顔がちらついた。
虚像とはいえ「だから言ったでしょ?」とでも言いたげな、その勝ち誇ったような表情におもわず胸がカッと熱くなる。
私だって……。 私だって……!
そして気が付くと私は、とんでもない言葉を口にしていた。