キスから始まる方程式
* * *
「ふ~ん……そんなことになっちゃったのかぁ……」
ファーストフード店の相向かい席に座りながら、神妙な面持ちで麻優が呟く。
今日はあれから2日ほど経った日曜日。
ここのところ元気がなかった私を心配した麻優が、気分転換も兼ねて遊びに誘ってくれたのだ。
「それで、七瀬はそのあとどうしたの?」
「うん……」
桐生君の胸のホクロを確認したところまでの大まかな経緯を聞き終えた麻優が、ジュースを片手に聞いてくる。
「ホテルに……行こうって言った」
「ホ……、ホテル!?」
まさか私がそんな大胆なことを言うなんて想像もしていなかったのだろう。
突然の爆弾発言に虚をつかれた麻優が、飲んでいたジュースを盛大に噴き出した。
「ブホッ、ゴホッ……っ」
「ま、麻優、大丈夫?」
「う゛……大丈……夫……ケホッ」
涙目で顔を真っ赤にして苦しそうな麻優に、備え付けの紙製ナプキンを差し出す。
「あり……がと……コホッ」
そのナプキンで口もとやテーブルを拭きながら、ようやく落ち着きを取り戻した麻優が「それにしても」と再び言葉を続けた。
「恋愛下手の七瀬にしては、また随分大胆なこと言ったね~」
「う……。だよね……」
あれからかなりの時間が経った今でも、思い出すだけで顔から火が出そうになる。
自暴自棄になった人間というのは、後先考えずにこれほどまでに愚かになってしまうものなのだと、身をもって知ることとなってしまった。
「それで……結局のところ、しちゃったの?」
突然テーブルに前屈みになり、声をひそめる麻優。
年頃の女の子だから、やはりそこはどうにも気になるらしい。
先日の保健室での一件で麻優にもう隠し事はしないと決めていた私は、自分の気持ちやそれからのいきさつを包み隠さず麻優に話し始めた。