キスから始まる方程式
「―― …… そんなわけで、結局私すっごく情けない強がり言って逃げてきちゃったんだ」
「う~む……なるほどねぇ」
既に時間が経って冷たくなってしまったポテトをくわえたまま、一通り話を聞き終えた麻優が難しい顔をして唸る。
「けどさ、彼女からの誘いを断るなんて、桐生君も意気地がないねぇ」
ニシシっと苦笑しながら、ふざけ気味に私をからかう麻優。
「んもう麻優ってば! 真剣に悩んでるのにっ」
「アハハ、ごめんごめん。私の大事な七瀬の貞操が守られたから、安心して、つい」
やんちゃなイタズラっ子みたいな麻優の笑顔が、こんなどうしようもなく暗い私の話に光を灯してくれる。
他人が見れば、こんな時に冗談を言うなんて不謹慎だと怒る人もいるかもしれない。
けれど私にとっては、そんな飾り気のない麻優の明るさが今は何よりもありがたかった。
「まあ冗談はさておき……」と、改めて真剣な顔で麻優が私に向き直る。
「それにしても、まさか風間君まで七瀬の恋愛バトルに参戦してくるとはねぇ。あ、でも、やっぱりといえばやっぱりかな」
「ん? やっぱりって?」
「う~ん、だって前にも言ったけど、私はてっきり風間君は七瀬とくっつくと思ってたもん。
だからその風間君が南條さんと付き合うって聞いた時、絶対何かの間違いだと思って信じられなかったし」
「そっか……」