キスから始まる方程式


ドンッ



私も早足で歩いていたため予想外のことに反応しきれず、そのまま麻優にぶつかってしまった。



「んも~麻優、いきなり止まったりしたら危ないよー」



「ケガしなかった?」と問いかける私に、けれど返事は返ってこない。



「麻優? どしたの?」



ぶつけてしまったお腹をさすりながら「麻優?」ともう一度名前を呼ぶ。



すると



「……七瀬」

「ん?」

「やっぱカラオケは今度にしよっか……。
あ! あたし、新しいスカートが欲しかったんだ! ほら、この前一緒に見たファッション雑誌に載ってたようなやつ!」

「麻優?」



先程とは一転、クルリと踵を返した麻優が、私の目の前を塞ぐように行く手を遮った。



「どうしたの急に。さっきまでカラオケに行くって、あんなに張り切ってたのに」

「え!? あー……、ほらやっぱさ、よく考えたら七瀬この間まで体調悪かったのに、病み上がりでそんなハードなことするのはあんまよくないかなー、なんて」



落ち着きなく目を左右に泳がせながら、私を元来た道へ押し戻そうとする麻優。



「デパートはあっちだから。ほら、戻ろ?」

「ん? 私ならもう大丈夫だよ? 逆におもいっきり声出したほうがスッキリして楽になりそうだし」

「あ、いや、あの……でも……っ。ここで無理して悪化させたら、それこそ元も子もないってゆーか……その……」

「?」



突然歯切れが悪くなった麻優に、首を捻る私。


執拗に戻りたがってるように感じるのは、考え過ぎだろうか?


ただ単に私に気を遣っているだけ? それとも……

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