キスから始まる方程式
「七瀬……」
あぁ、また麻優に心配かけちゃうな……。
せっかくの可愛い笑顔が、また私のせいで曇っちゃうね。
浮上できないくらいどん底に突き落とされたのに、今までとは違い、なぜだかそんなことを淡々と考えている自分がいる。
多分それは、近い未来にきっとこうなるんじゃないかって、心のどこかでずっと思っていたからかもしれない。
「桐生君、こんなの酷い。酷過ぎるよ……っ」
私の代わりに怒ってくれている麻優が、とても頼もしく感じられる。
「七瀬私っ、もう我慢できない! 桐生君のとこに行ってくる!」
怒りもしなければ動こうともしない私に痺れを切らしたのか、私を見上げていた麻優が意を決したように足を踏み出した。
しかし
「いいの」
「え?」
そんな麻優の腕をギュッと掴んで、それを制止する私。
震える指を懸命に抑え、更にその指にキュッと力をこめる。
「なんで? なんでいいの!?」
「……」
「だって、こんなのってないよ! 桐生君はまだ七瀬と付き合ってるんだよ?
なのにあれじゃまるで、工藤さんと桐生君のほうが……」
―― 恋人同士みたいじゃない
私を気遣ったのか、麻優がすんでのところで最後の一言を飲み込んだ。
けれど、言葉に出さなくてもわかってしまう。
だって私も目の前の二人の姿を見て、麻優と同じことを思ってしまったのだから……。