キスから始まる方程式


「七瀬……」



あぁ、また麻優に心配かけちゃうな……。


せっかくの可愛い笑顔が、また私のせいで曇っちゃうね。



浮上できないくらいどん底に突き落とされたのに、今までとは違い、なぜだかそんなことを淡々と考えている自分がいる。


多分それは、近い未来にきっとこうなるんじゃないかって、心のどこかでずっと思っていたからかもしれない。



「桐生君、こんなの酷い。酷過ぎるよ……っ」



私の代わりに怒ってくれている麻優が、とても頼もしく感じられる。



「七瀬私っ、もう我慢できない! 桐生君のとこに行ってくる!」



怒りもしなければ動こうともしない私に痺れを切らしたのか、私を見上げていた麻優が意を決したように足を踏み出した。



しかし



「いいの」

「え?」



そんな麻優の腕をギュッと掴んで、それを制止する私。


震える指を懸命に抑え、更にその指にキュッと力をこめる。



「なんで? なんでいいの!?」

「……」

「だって、こんなのってないよ! 桐生君はまだ七瀬と付き合ってるんだよ?
なのにあれじゃまるで、工藤さんと桐生君のほうが……」



―― 恋人同士みたいじゃない



私を気遣ったのか、麻優がすんでのところで最後の一言を飲み込んだ。


けれど、言葉に出さなくてもわかってしまう。


だって私も目の前の二人の姿を見て、麻優と同じことを思ってしまったのだから……。

< 442 / 535 >

この作品をシェア

pagetop