キスから始まる方程式
◆好きだから……
午後3時50分。
いつもの管理棟の階段で、桐生君がやって来るのを待つ私。
待ち合わせは4時だから、あともうちょっとだけ時間がある。
ポーチから小さな手鏡とコームを取り出して、いつもよりも丁寧に何度も何度も髪をすいて。
制服にホコリついてない?
シワは大丈夫?
スカートの裾がめくれてたりしないよう、十分気を付けなくちゃ。
それからもう一度、前髪がハネてないか手鏡でよーく確認して……そして最後にニッコリ笑顔の練習。
うん、大丈夫。
私、ちゃんと笑えてるよね。
麻優の天使スマイルにはちょっと負けちゃうかもしれないけど、それでも私にとっては精一杯の極上スマイル。
だって、桐生君に覚えていてほしいから。
私の笑顔を。
桐生君のおかげで、こんなに笑えるようになったんだよって、忘れないでいてほしいから。
だから私は今日、二人の楽しい思い出がいっぱいつまったこの場所で、大好きな桐生君に笑顔で伝えるの。
今までありがとう。さようならって ――……