キスから始まる方程式


「七瀬!」



午後4時ジャスト。



約束した時間通り、桐生君が待ち合わせ場所である、この管理棟の立ち入り禁止階段へとやって来た。


結局桐生君とは3日前の帰り道を最後に、挨拶以外まともに会話を交わすことはなかった。



あの日の出来事……私と翔のことを、桐生君は何も聞いてこない。


だから私も、何も言わない。


きっとそれでいいんだと思う。


だって私は明日からはもう……桐生君の“彼女”じゃなくなるんだから……。



「待たせたか?」

「ううん、私もさっき来たとこだから」

「そうか、ならよかった」



切れ長の瞳をフッと細めて、桐生君がふんわり優しく私に笑いかける。


あんなことがあったばかりだから、もしかしたら不機嫌なままかも……と多少覚悟はしていたのだが。


予想外の笑顔に、おもわずキュンとなってしまう私の胸。



あぁ、私ってばダメだな。


桐生君の笑顔を見ただけで、涙が出そうなくらいこんなにも嬉しいなんて。



ツンとこみ上げてきた涙を、奥歯をギュッと噛みしめてなんとか懸命にこらえる私。

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