キスから始まる方程式


あ…… 私っ……!?



知らず知らずのうちに出しかけていた手を、慌てて胸へと引き戻す。


指先がふるふると震えて、動揺のあまり体中の血液が逆流してしまいそうだった。



あぁ、私ってば本当に、なんて弱虫なんだろう。



昨日あんなに悩んで、いっぱいいっぱい泣いて、……そうしてようやく決心したのに。


それなのに桐生君の笑顔ひとつで、こうも簡単にその決心が揺らいじゃうなんて……。



震えが止まらない手をギュッと握りしめ、そんな私の手を優しく包んで励ましてくれた麻優のことを思い出す。



私も麻優のように強くなりたかったの。


麻優のように、人の心を思いやれる、そして自分よりも他人のことを大切にしてあげられる、そんな人間になりたいと思ったから……。



だから桐生君と、さよならしようって決めたの。



桐生君のこと好きだけど ……ううん、好きだから、幸せになってほしい。


大好きだからこそ、桐生君には本当に好きな人のそばで、心から笑っていてほしい。



いつか桐生君が、翔を想う私の気持ちを大切にしてくれたように、今度は私が桐生君の工藤さんへの気持ちを大切にしてあげる番。



優しい桐生君のことだもん。


なかなか私を突き放すことができなくて、このままだときっとすごく苦しんじゃうと思うんだ。



そうやって私のせいで、本当は結ばれるはずの二人がずっと辛い思いをするのは……、やっぱり……やだな。



だから私から言ってあげなくちゃ。


自分のために。


そして何よりも、世界中で一番大切で一番大好きな桐生君のために……!



「桐生君……、別れよう――……」

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