キスから始まる方程式
「っ!!」
その返答を聞いた刹那、昨日胸に刺さった鋭い杭が、更に奥深くまでグサリと突き刺さった。
痛い……痛いよ……。
ドクン……ドクン……と脈打つような激しい胸の痛みが私を襲う。
この時になってようやく私は、最後の最後で桐生君が否定してくれることを、本当は心のどこかで期待していたのだということに気が付いた。
この期に及んでまだそんなことを思っているどこまでも往生際が悪い自分に、呆れるのを通り越してむしろ嫌気さえ差してくる。
私ってばほんと……嫌な女の子だな……。
まだ中学生で幼かった工藤さんだって、桐生君の幸せを思ってきっぱり身を引いたというのに……。
こんな自分勝手な自分が、心の底から情けなくて恥ずかしかった。
私でさえこんなに自分のことが嫌いなんだもん。
桐生君の心が私から離れてっちゃうのも、当然だよね……。
こうして自己嫌悪に陥っている間にも、確実に近付いている私と桐生君の最後のとき。
あぁ、でももう、本当にこれで全部……終わりなんだな。
せめて最後は……最後だけはちゃんと、笑顔でありがとうって伝えてお別れしなきゃ。
桐生君がもっとずっと先の未来に、いつか私を思い出すことがあった時、笑顔の私を思い出してくれるように。
私と過ごした日々が、少しでも彼の中でいい思い出として残るように……。
そう思って俯いたままの桐生君に再び視線を戻した瞬間、突然桐生君がガバッと顔を上げた。
「あ……」
不意の出来事に驚いた私が言葉を失いそのまま見つめていると、強張っていた桐生君の表情がフワリとゆるみ、長くてキレイな指がスッと伸びてきた。
そのまま私の頭をそっと撫でると
「七瀬……、今度こそ風間と幸せになれよ」
切れ長の目をフッと細め、目尻にしわを作りながら優しい笑顔でそう呟いた。