キスから始まる方程式
「っ!!!」
その温かい手のぬくもりと大好きな桐生君の笑顔を見た瞬間、私の中の理性とか道理とか、そんな物は全て一瞬のうちにどこかへ吹き飛んでしまった。
そして……気が付くと私は、瞳を閉じ精一杯背伸びをして、桐生君の唇に自らの唇を重ねていた。
一瞬触れるだけの短いキス。
自分からした……初めてのキス。
「桐生君、今までありがとう。さよなら……っ」
震える唇を離し、一生懸命練習した笑顔でそう告げると、私は踵を返し階段を駆け下りた。
「七瀬……っ!」
桐生君が私を呼ぶ声が聞こえる。
でも私は振り返らない。
だってもう……私の顔は涙でグチャグチャだから……。
ねぇ桐生君。
私は最後、ちゃんと笑えてたかな?
ちょこっとだけうるうるしちゃったけど、それでも頑張って泣かないでお別れ言えたから、麻優も褒めてくれるかな。
“七瀬、えらかったね”って、いつもみたいに笑顔で迎えてくれるといいな。
でも……キスしちゃってゴメンね。
桐生君の笑顔見たら、好きの気持ちが溢れて止まらなくなっちゃったんだ。
だけどもう、本当にこれで最後だから……工藤さんも桐生君も、きっと許してくれるよね。
私からした初めてのキス。
そして、桐生君との……最後のキス……。
一瞬だったけど、桐生君の唇、あったかかったな。
あったかくて、胸の奥がキュンってなって……このまま時間が止まっちゃえばいいのにって、そう思った。
私、きっと忘れない。
唇の温かさも、手のぬくもりも……桐生君と過ごした夢のように幸せだった日々も……。
私の胸の中でキラキラキラキラ、宝石みたいにずっとずっと輝き続けるの。
キラキラキラキラ……大人になってもおばあちゃんになっても、いつまでもいつまでも、ずっと ―――― …………