キスから始まる方程式
* * *
「おはよ~!」
「うぃーっす」
いつもと変わらない、いつもとおんなじ朝。
爽やかで清々しい朝特有の空気と、教室や廊下に響く生徒達の元気なはしゃぎ声。
窓の外を見渡せば、雲ひとつない青空と、その下で泥まみれになりながらひたむきにボールを追いかける野球部やサッカー部の部員達。
そんないつもと変わらない平和で微笑ましい光景に目を細め、机の上に置いてある鞄から教科書とノートを取り出す。
えーっと、今日の一限目は……数学っと。
そうしていつものように一限目の授業の準備をしていると
「七瀬おはよ~!」
「おはよ美奈ちゃん」
私の一つ前の席の主である佐々木 美奈(ささき みな)ちゃんが、教室に入って来るなりものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ七瀬、今日の数学の宿題やってある? あたし今日あたるのに、すっかり忘れちゃってさ~」
申し訳なさそうに頭を掻きながら、ペロリと舌を出す美奈ちゃん。
「うん、やってあるよ」という私の返事に目を輝かせながら
「サンキュ~七瀬! 恩にきるよ~」
と、早速自分のイスをこちらに向け、私の机でノートを写し始めた。
根がおっちょこちょいの美奈ちゃんは、こんなことがしょっちゅうで。
こうやって私のノートを朝写すのも、いつもと変わらない見慣れた光景だ。
あれもこれも、みんなみんないつもと同じ。
同じはずなのに……それなのにその中でたったひとつだけいつもと違うのは ―― ……
「あ、冬真君おはよ~!」
「おす、佐々木」
桐生冬真が、私の彼氏じゃなくなったということ……。