キスから始まる方程式


「……はよ、……結城」

「っ!!」



―― “結城”



聞き慣れないその響きに、笑顔と平常心を懸命に装っていた私の仮面にピシリと亀裂が走る。



だめっ、笑顔笑顔!



「……お、おはよ! 桐生君」



今にも剥がれ落ちそうな仮面をなんとか留め、桐生君に笑顔を向けて挨拶をした。……のだが



あ……。



そんな私の必死の笑顔も、既に私から視線を外している彼の瞳には映ることさえなくて。



……もう“七瀬”って、呼んでくれないんだな。



ツキンと痛む私の胸。



やだ私ってば、なにショック受けてんだろ。当たり前だよね、そんなの……。


だって私はもう桐生君の彼女じゃないんだもん。


避けないでちゃんと挨拶してもらえただけでも、よしとしなくちゃだよね。



たとえ隣の席であっても、今までのように親しい関係ではいられないことはわかっていたのに。


心の準備もしっかりと出来ていたはずなのだが、やはり想像するのと実際に味わうのとではこんなにもショックが違うのかと、改めて痛感した。

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