キスから始まる方程式
「弱虫……」
なんとも情けない自分に、再び涙が溢れてくる。
――『桐生君も幸せになってね』
するとそんな私の心に、昨日桐生君に言ったばかりの自らの言葉が浮かんできた。
「あ……」
そうだ。私は大好きな桐生君の幸せのために頑張ろうって、自分でそう決めたんだった。
「……七瀬のばかっ! こんなことくらいで弱音吐くんじゃない!」
今にも挫けてしまいそうな弱い自分に、活を入れるように頬をギュッと指でつねる。
そうして汗と涙でビショ濡れになった顔を水で洗うと、改めて気合を入れ直した。
「よしっ、大丈夫! 頑張れ七瀬!!」
両手で挟み込むようにして、パチンと両頬を何度も叩く。
顔から勢いよく水が弾け飛び、それと一緒に弱虫な自分もどこかへ飛んで消えていくような、そんな気がした。
「さて! そろそろ教室に戻ろっかな」
ようやく落ち着きを取り戻し、顔を洗う時にはずしていた腕時計を再び左手首にはめ直す。
「七瀬っ」
その時突然背後から、私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「え……?」
聞き慣れたその声に、反射的に振り返る。
するとそこには、先程の私と同じように額から滝のような汗を流した翔が立っていたのだった。