キスから始まる方程式
「桐生君とは……別れたの」
「っ!?」
私の言葉に、目を見開いて驚く翔。
けれどすぐさま我に返り、声を荒げて問い詰めてきた。
「なんでだ!? 俺がこの前アイツにあんなこと言ったから、それでケンカになったのか!?」
「ううん、そうじゃないの! 翔が原因とかじゃなくて……」
言い淀む私に、翔の表情がより一層曇る。
もともと根が真面目で正義感が強い翔のことだ。
もしかすると様子がおかしい私と桐生君を見て、“七瀬は渡さないから”と公言してしまった自分のせいだと責任を感じているのかもしれない。
しかしまさか「桐生君と工藤さんのために身を引いた」などと、本当のことを言う訳にもいかない。
だから私は別れたことだけは正直に伝え、その理由だけ嘘をつくという、事実半分、誤魔化し半分の答えを選んだのだった。
「私がね、桐生君のこともう好きじゃなくなっちゃったの」
「ただそれだけのことなの」と翔に告げる。
けれど、そんな私の偽りの言葉に返ってきたのは
「七瀬。 俺がお前の嘘、気付かないとでも思ってんのか?」
「っ!!」
見事に私の嘘を見抜いた翔の返答だった。