キスから始まる方程式
「か……けるっ……っ!?」
突然のことに真っ白になる私の頭。
「七瀬……っ」
「っ!!」
耳元で響く翔の苦しそうな声や息遣いに、私の胸がドクンと悲鳴をあげる。
あ……ど、どうしよう……っ!
けれど私の体はまるで縛り付けられたように固まってしまい、身動きひとつ取ることができなかった。
「か、翔……あの……っ」
何て言ったらいいのかわからなくて、途中で言葉に詰まる私。
そのままどうすることもできずにいると、やがて翔がふぅっとひとつ息を吐き、意を決したように言葉を発した。
「こんな時にこういうこと言うのはズルいかもしれないけど……俺じゃ、だめか……?」
「っ!?」
思いもよらない翔の言葉に、私の体が更にビクリと硬直する。
「本当はさっきも、泣いてたんだろ?」
「それは……っ」
あぁ、なんで翔には全部わかっちゃうんだろ……。
「俺はもう七瀬が苦しんで泣いてる姿なんて、これ以上見たくない」
「翔……」
「俺だったらお前のこと、泣かせたりしない。
七瀬が意地っ張りなのも負けず嫌いなのも、泣き虫なのも寂しがり屋なのも、何もかも全部知ってる俺なら、お前のことわかってやれる」
記憶が、蘇る。
桐生君と出会うまでは、私の気持ちを一番に理解し、辛いことがあって苦しんでいる私を笑顔にしてくれたのはいつも翔だった。