キスから始まる方程式
「それに、七瀬は覚えてないかもしれないけど……」
そう言って、しばらく何事か考える風にして黙り込む翔。
やがて何かを吹っ切るように私を抱きしめる腕にグッと力を込めると、迷いのない凛とした声でキッパリと言い放った。
「昔した結婚の約束、俺は一日だって忘れたことない。今でも本気で果たしたいと思ってる」
「……っ!!」
幼き日に交わした結婚の約束。
あれから長い年月が経ち、覚えているのも本気にしているのも自分だけだとばかり思っていたのに。
それがまさか、翔も忘れずに覚えていようとは……。
「翔、覚えて……たの……?」
驚きのあまりおもわずそう呟くと、返事のかわりにドクンドクンという切ない響きが私の耳に届いた。
翔の胸から伝わってくる、熱くて激しい鼓動。
その鼓動が、翔のこれまでの言動が冗談などではないということを、確かに証明していた。
あ……私……。
私を包み込む翔のお日様みたいなあったかい匂いに、目の前がクラクラする。
全力でぶつけられた翔の真剣な気持ちに、思い出の品と共に箱に仕舞い込んだはずの翔への想いが、カタカタと揺れ動いているのがわかった。