キスから始まる方程式
「七瀬……。楽しかったあの頃みたいに、俺達もう一度やり直そう?」
「やり……直す……?」
「あぁ。俺達いつも一緒だったろ? どんな時でも支え合ってずっと生きてきた。
そんな俺達なら、きっとまた昔のように互いに想い合える」
お互い……想い合える……。
翔の言葉に、胸の奥がジンと熱くなる。
子供の時からいつも一緒だった翔。
あの頃は翔がそばにいてくれるだけで、毎日がとても幸せだった。
嬉しくて楽しくて幸せで……ただひたすら真っ直ぐに翔のことだけを想って、翔のことだけを見つめて……それだけで他には何もいらなかった。
戻れるのかな……あの頃に……。
いつの間にか私の髪を優しく撫で下ろしている翔の手に、おもわず胸がキュンとなる。
そのなんとも言えない手の心地よさに、次第に遠のいて行く私の意識。
戻れたら、きっと楽しいだろうな……。
辛いことも苦しいこともみんな忘れて、昔みたいに毎日笑って過ごしたいな。
翔のワイシャツの裾をキュッと掴み、その指に力をこめる。
いっそこのまま、この手に身を委ねてしまおうか。
翔の温もりに流されるようにして浮かんでくる新しい気持ち。
うん、そうだね。それもいいかもしれないね。
きっと翔なら、私のことをわかってくれる。
きっと翔なら、私のことをまた笑顔にしてくれる。
そうしたらまた前みたいに、毎日がキラキラと輝き出すかもしれない。